今回は漫画ではなくライトノベルのレビューです。
本作はハーメルンとカクヨムで連載されているネット小説です。書籍化されており、現在オーバーラップ出版社から1巻が発売されています。
あらすじとしては、貞操逆転世界に転生した主人公ファウストが中世をベースにした異世界で、辺境騎士の主人公が絶対的な武力を駆使し、活躍するという物です。
貞操逆転世界はネット小説慣れしていれば、ハーメルンのトレンドなので、馴染みやすいかもしれません。あるいはよしながふみ先生のファンではあれば、すんなり受け入れられるでしょう。
ただ、ハーメルンにおける貞操逆転世界物は、貞操逆転した主人公が無防備さや希少性によりモテモテになって、女の子に囲まれるというのがセオリーであり、変則的なハーレムものです。
特に説明があるわけでもないし、女性が上位になったことによる社会の変化が楽しめるわけでもありません。そもそも、ハーレムものにロジックを求める方がナンセンスです。なんか面白ければそれでいいでしょう。
本作品もそういった要素は多少ありますが、英雄物語でもあり、戦記物でもあります。
当代最強の騎士であるファウストが不利を覆し、無双する姿は痛快であり、伝記を読んでいる気分になります。
一方で本作品は政治的決着をする場面も多く、ファウストの武芸とは関係ない点で問題が解決することがあります。
それどころか、ファウストは政治的センスがあまりないので、時に状況を悪化させることもあります。所詮は辺境の領主なので、王侯貴族のように大局観を持って政治を見ることができないのです。
英雄物語的な楽しさと政治のシビアさの描写を両立させているのがこの作品の面白い点だと思います。
本作品は描写のバランス感覚がとても素晴らしいです。臭みを消しながらも、楽しさを保っているのはすごいとしかいいようがありません。
また、世界史選択の方であれば、世界史の人物や事件がストーリーの下敷きになっていると分かるでしょう。ハーメルンの感想欄では歴史に詳しい方が考察されているので、それを読むのもまた楽しいです。
もちろん、世界史の事件をそのままストーリーにするのではありません。オリジナルキャラクターやファンタジー要素といった変数と組み合わせて、この作品独自の世界を作り上げています。
主人公が戦っている時よりも、世界情勢が動いている時や、サブキャラが自分の思惑で動いている時の方が面白く感じます。この感覚はワンピースに近いです。
(バトルシーンはファウストがあまりに強すぎて笑える)
作品世界の歴史がこれからどうなっていくのか非常に興味が惹かれる作品です。
ライトノベルらしく、キャラクターやギャグシーンも魅了の一つです。
1巻から登場しているヴァリエールはWEB版の最新章で一番輝いています。真面目で優しい人間が苦しんでいる姿をみて、読者は楽しんでいます。人の苦労はなぜこんなにも面白いのでしょうか。
個人的にはWEB版は今が一番面白いです。
書籍版の続刊が刊行されることが既に決定しているようです。好きな作品が売れて、もっと読めるようになるのはファンとは嬉しいところです。
みなさんもぜひ読んでみましょう。
ネット小説なので、自分に合うか試しやすいです。書籍版はWEB版から追加エピソードが加筆され、表現も改められているため、クオリティアップしています。
タイトルはヘンテコですが、一度読めば、作品の魅力は伝わります。序盤で局部の痛みを訴え続けていますが、怖くないです。時間の無駄にはなりません。信じてください。
それにしても、ネット小説は魔境ですね。リゼロやサイレントウィッチを読んだ時にも思ったのですが、世に出ていないだけで、面白い作品を描く人はいっぱいいるんですよね。
面白い作品を見つけたら、今後もこうやってレビュー記事を書くつもりです。私がきっかけで読んでくれる人が一人でもいればいいなあと思います。